書評>宍戸常寿『憲法解釈論の応用と展開(第2版)』

『憲法解釈論の応用と展開(第2版)』

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【書誌】

コメント

 ぽっぽーさんのお友達こと憲法・情報法専攻の東大教授による憲法の演習書。

 法学セミナーに連載していたものを単行本化したもので,いわゆる三段階審査など概論に触れた後で,憲法上の権利と統治を扱います。各項目ごとに,設問が挙げられており,A君(予備校の論証パターンを貫徹するタイプ)とB君(問題提起役)の2人のコメントを経た後で,宍戸先生が解説をしていくというスタイルで書かれています。また,第2版になった際に,補論として,「司法試験の出題趣旨・採点実感と憲法の学習」という項目が追加され,事例問題特に司法試験に取り組む際の,出題趣旨・採点実感といういわゆる「天の声」との向き合い方が示されています。著者による本書に関するコメントは,こちらに掲載されています。

 各項目とも,一通り憲法の学習を済ませた(芦部憲法を読んだ,憲法の講義を聴いたなどのレベル)を想定したうえで,事例問題を解くに当たり,その設問にどのような問題が潜んでいるのか,予備校の論証パターンで済ませようとすると何が問題なのかということを具体的に示しています。例えば,憲法上の権利の享有主体性の項目では,八幡製鉄事件とマクリーン事件を紋切り型に捉えると何が問題なのか記載されています(「人権享有主体性」ではなく「憲法上の権利の享有主体性」という項目から問題意識が表れているところです)。このような具体的な記載を通して,パターン化した処理の問題点や,ざっと勉強しただけだとよく分からなくなる点を読者に気づかせるという意味で,有益な書籍です。また,脚注及び項目末尾の参考文献の記載も配慮されており,参考になります。

 もっとも,「中級者」のレベルはかなり高く設定されていると思います。宍戸先生的には「中級者」なのかもしれませんが,司法試験合格レベルははるかに超えた水準だと思います。そのため,宍戸先生のコメントにもかかわらず,本当に試験対策として適しているのか,芦部憲法を一読したレベルの人をさらなる論文等に橋渡しするのに適した本なのか,という点は疑問が生じます。また,憲法に意欲的な方は,本書の議論の基になっている判例や論文に直接当たりに行くと思います。そうすると,本書を勧めるべき層というのがどのあたりなのか,分からないようにも思います(試験対策という意味でいえば,慶應系の先生の本とか憲法ガールとかもう少しとっつきやすいのが出ていますし,学究肌の人にはむしろ本書で挙がっているような蟻川先生とか石川先生とかの論考を勧めたほうがよさそうですし,難しいところです)。

 とはいえ,法科大学院の2年次以降であれば,事例問題や法科大学院の課題に取り組む際の一つの視点を得るために,本書を持っていると,有益な場面もしばしばあるのではないかと思いますので,法科大学院生の方などは持っていても損はない一冊なのだと思います(少なくとも,補論部分は図書館で見るなりすると,憲法に深入りすることは考えていないという人であっても有益なのではないかと思います。)。

by Q.Urah