書評>土屋文昭=林道晴(編著)『ステップアップ民事事実認定(第2版)』

『ステップアップ民事事実認定(第2版)』

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【書誌】

コメント

 裁判官・司法研修所教官経験者が中心となって作成された,事実認定に関する一冊。修習生間でのシェアは大きそう(?)

 前半は事実認定をするに当たっての概論(事実認定とは何か,動かしがたい事実とは,書証・人証等)の解説で,後半は前半部で学んだことを踏まえて事実認定を行うための10個の設例が設けられ,その解説がなされています。また,冒頭と末尾では,著者らによる座談会の内容が掲載され,本書の使い方や事実認定に当たっての心構えが述べられています。

 『事例で考える民事事実認定』は,参考証拠込みで100頁くらいのかなり薄い本なので,本書も参照するとまた新しい発見があることと思います(民裁修習中に事実認定の起案をするに当たって,参照する機会はしばしばありました)。

 本書を使う注意点としては,本書が処分証書の定義を記載された説(意思表示その他の法律行為が記載された文書)を採るので,微妙に説明の枠組が異なる点です。類型的信用文書とかそういう話は出てきません。もっとも,よってされた説にしても記載された説にしても,やりたいこと(事実認定)は同じなので,本書を読んだからといって混乱するということはないように思います。

 冒頭の座談会では,(導入修習がなかった時代に出版されたこともあり,)司法試験後くらいに読むとよいとありますが,修習開始後でも十分有益な本だと思いますので,どこかで手に取ってみてもよいかと思います。むしろ,実務修習で実際に事実認定の起案をやる合間に読んだ方が,本書の内容に実感できるところがあるのではないでしょうか。

 (そういえば,わたくしがいろいろなジャンルの本を取り上げているのは,別に本書の末尾に書かれたように視野を広げたいとかではなく,単純な興味に従っていくと法律から離れて行ってしまうだけなのであります。)

(追伸)改訂で座談会がなくなってしまったようです。林さんが最高裁判事になられたなどの事情もあり,関係者を集められなかったなどの事情があるのだと思いますが,内容が充実していただけに残念ではあります。

by Q.Urah