書評>上野達弘ほか『特許法入門』

『特許法入門』

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【書誌】

コメント

 定評ある知財研究者による,定評ある特許法の基本書。

 ロー生やら法学部生やらに特許法の本を勧めろと言われたら,迷わずに本書を挙げます。

 『著作権法入門』の初版から5年くらい経ってから出された本書ですが,執筆方針は『著作権法入門』と同じで,用語の定義から先端的論点まで,コンパクトにしながらも示していくというものです。学修者にとってはありがたい限りです。

 本書は,特許法の全体を比較的コンパクト(500頁くらいありますが,特許法をこの分量に抑えたのでコンパクトです())に,しかし議論のある点はそれも示して,学修段階で必要な情報を過不足なくカバーしています。とりあえず司法試験くらいであれば,基本書はこのくらいの情報量があれば十分なのではないかと思います(著作権法入門とセットでお世話になりました)。本書のすごいところは,脚注や「ステップアップ」を見ると先端的な問題やより深く考察するためのヒントが盛り込まれており,コンパクトにまとめているはずなのに表層的ではないところです。知財の論文でも結構な頻度で参照されているあたりからも,このことが窺えるでしょう(法教で知財特集の時とかを見ればわかります)。

 一点注意点があるとすれば,出版時期の関係で,職務発明の平成27年改正は反映されていない点です。職務発明は,特許法の中でも重要トピックであるだけに,本書も30ページ近く頁を割いていますが,使用者帰属になった点や相当の「利益」となった点,ガイドライン等は触れられず,改正前の内容で書かれています。有斐閣さんのページを確認したところ,補遺も出ていないようなので,この部分は改正後に出版された本(中山特許法等)で補う必要があるでしょう。

 これから知的財産法を選択科目で扱いたい,知財の講義やゼミに参加するから全体像を学習しておきたい,昔やったけど忘れたから復習したいなどなど,いろいろな目的を持つ人がいると思いますが,あらゆる方面の人々に本書をお勧めします。

by Q.Urah