書評>弥永真生=宍戸常寿(編)『ロボット・AIと法』

『ロボット・AIと法』

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【書誌】

コメント

 様々な分野の研究者が,専門分野からロボットやAIをめぐる法律問題を検討した一冊。

 あえて「法学入門」に放り込んでみましたが,異論は多くあるだろうし,自分でも無茶したなと思う分類をしてしまいました(とはいえ,ここ以外に良い分類も思いつかず(><))。

 本書の内容ですが,1章,2章でロボット・AIをめぐる国内的,国際的な法政策上の議論を概観します。3章以降では,法哲学及び諸法,国際法の観点から,各論的にロボット・AIが実用化されることで,既存の法体系がどう動くことになるのか,従来の議論を踏まえ,起こるであろう問題を端的かつ的確に指摘しています。ロボット・AIをめぐる問題は近年急速に議論され始めたところで,法律だと2017年に多数の文献が出たばかりということですから,議論状況をつかむために最適な一冊だと思います。内容も,実際どうなるかは未知数なところがありますが,例えば笹倉先生の執筆箇所で事実認定までできるようになるのではないかとしている辺りは本当にそうなるか,興味深く読めました。

 わたくしが無理やり本書を法学入門に分類した理由ですが,以下の3つです。第一に,法律を学んでいく上での視点が完全に含まれていることです。脚注及び章末で参考文献がしっかり摘示されており,諸法をカバーしていることから,南野森(編)『法学の世界』(日本評論社,2013年)のような,各法律への案内として素晴らしいのではないかと思います。第二に,流動的かつ国際的な分野を扱った反射的効果で,各所で国際的な視点も入れられており,さらに,刊行時期が債権法改正と重複するという偶然もあり,国内の現行法のみ見ればよいのではないと意識できるという点も入門に良いのではないかと思います。第三に,基礎的概念の重要性も理解させられる点でも有益でしょう。各種試験対策で入ってしまうと,どうしても基礎的概念を深く考える必要は乏しい(それを考えていると試験に間に合わない)のですが,例えば3章では自由な意思という概念が揺らいでいることを読み取れますし,第6章では意思表示という民法の最初で少し触れるが実は重要な部分が揺らいでいるということを読み取れます。このように,社会の方が動くとき,基礎概念を深く考えておかないと対応できないことを実感させるという意味で,入門者こそ読む意義が大きいのではないでしょうか。

 当然ながら,一人当たりの分量が多くはないことと,扱う対象があまりに動いているものであることから,本書を読めばロボットやAIに関する法的議論について確たる結論が得られるわけではありません。むしろ,問題点を整理し,どういう視座があるか獲得するための一冊と考えたほうがよいでしょう。あと,株式価格算定等についての商法会社法的な議論がない(担当の研究者を自動運転と医療機器で埋めてしまったから?)のと,医療機器のところでの管轄の話くらいしか民事訴訟に関する議論がない(訴訟に関する議論は刑事に吸収させた?)のは,いずれも実務上AIが最初に取り入れられてもおかしくない分野であるだけに,少々残念でした。

 というわけで,法学入門に本書を用いるというのも,支離滅裂なことではなく,ありなのではないかと思います(それによる教える側,教わる側双方の負担については不知)。当然,現在進行形で激動の分野であるので,ある程度法律に慣れ親しんだ人でも,本書を読むことで得るものは大きいと思います。したがって,法学部進学を考えている人から法曹関係者まで極めて幅広い層にお勧めできる一冊だと請け負えます。

(追伸)白石先生が文1生向けの法1の講義で本書を使ったらしいですね(参考)。文1の学生さんは果たしてついて行けたのだろうか…?(一緒に予習文献として挙がっているのが三ヶ月章『法学入門』なのも見ながら。)

by Q.Urah