書評>相沢英孝『バイオテクノロジーと特許法』

『バイオテクノロジーと特許法』

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【書誌】

コメント

 知的財産法が現在ほど注目を集めていなかった時代に書かれた,バイオテクノロジーと特許法(及び種苗法)に関する一冊。

 (植物がらみで種苗法等への言及があるものの)主に特許法をバイオテクノロジーの観点から捉えなおしており,保護対象・権利の帰属と実現・特許要件・クレームの記載・保護範囲・権利付与手続といった点について,欧米との比較を行いつつ,詳細に論じています。

 本書ですが,いかんせん平成6年(1994年)の書籍ということで,現在(2020年)時点で読むと,記載が古くなってしまっているところがあることは否めません(日本法の例で挙げれば,特許法の平成6年改正の前の内容が前提に記載されていますし,均等論のボールスブライン最判や,キルビー最判及び無効の抗弁などについての議論は当然ながら反映されていません。)。そのため,制度や実務に関する記載については,本書の記載を参照しても,現在の実態と乖離してしまうという問題があります。

 もっとも,本書の問題意識は,現在でも生きている箇所が見られ,そうした意味で,本書は依然として価値を保っています。例えば,治療方法の特許を特許の対象から外すことについて,人の治療方法の公開・普及を進めるなどの観点から,通説を批判的に検討している点(78,79頁)は,本書の刊行後も検討され続けているところです(例えば,中山先生の『特許法(第4版)』(弘文堂,2019)124頁でも,本書の議論は参照されています。)。また,第6章第3節の保護範囲に関する議論など,現在の特許訴訟でも問題になるような内容も記載されています。

 法律等の制度面にせよ,実務上の運用にせよ,26年前の書籍なので,現在には当てはまらない点が多々あり,本書を実務家が読む必要性は低くなっていると思います(また,読むにしても,現在と状況が異なるという点に注意する必要があります)。もっとも,本書は,バイオテクノロジーと特許法の関係を体系的に論じた先駆的かつ基礎的な文献であるので,この分野を深く学ぶ際には参照されるべき文献であり,本書の価値は衰えないものと思います。

by Q.Urah