書評>角田美穂子=工藤俊亮(編著)『ロボットと生きる社会 法はAIとどう付き合う?』

『ロボットと生きる社会 法はAIとどう付き合う?』

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【書誌】

コメント

 民法研究者とロボット工学研究者のコラボにより,各分野の専門家との対談を軸にロボット・AIをめぐる法的・経済的情勢を検討していく一冊。

 有斐閣の『ロボット・AIと法』が基本科目系の法律(司法試験で出る範囲のものに近い)を扱うのに対し,こちらはAI技術の説明から労働経済学に移り,個人情報保護やGNSS,金融,医事法といった経済系の話題や専門的な法(裁判所であれば専門部・集中部が設置されるような法)を扱っているように思います。

 それぞれの分野のゲストがまずプレゼンテーションという形でその分野の問題意識の概説を行い,そのうえで編著者とその分野のゲストとで鼎談がなされ,最後に編著者が議論を振り返るというスタイルで,8章構成で進められます。鼎談ではプレゼンでなされた内容への疑問点や,他のゲストが提起した問題について別のゲストに聞いてみるなど,先進的な議論がリアルになされていることが実感できる内容になっています。また,平田さんの「人間はロボットより偉いのか」といった内容や望月さんの「人間でもブラックボックスな部分はある」といったようなご発言は,なにげなく前提にしている部分を揺るがすもので,刺激を受けました。

 一方,対談形式というのが,議論の整理や厳密性という観点からは,裏目に出ているような気がします(論考であれば出典を確認したうえで記述できるところが,対談を忠実に起こしているので曖昧にならざるを得ないなど)。もっとも,先鋭的な議論をリアルに描写するという利点の裏目でもあり,フォローもしばしばあることから,本書の価値を損ねるものとはいいがたいでしょう。

 また,本書を読んでいると,(→○○頁)といった注が挿入されている部分が多いのが分かります。AI・ロボットがらみの議論が幅広い分野に及び,様々な専門分野が参照されなければならないのですが,ディシプリンとしてどうするんでしょうねこれ。もはや一人で扱うのは厳しいような気もするところです。

 既存の法律を考えるという観点からも,今後ロボット・AIが普及するにつれどういう問題が生じうるか見通すという観点からも,各分野の専門家による先鋭的な問題意識が示された一冊であり,勧められる一冊だと思います。

by Q.Urah