書評>内田貴『改正民法のはなし』

『改正民法のはなし』

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【書誌】

コメント

 東大教授を経てから法務省参与として民法改正に関わった著者による,改正民法に関する概説。

 改正民法の重要なポイントに絞って,どのような背景で改正されたのか,改正のポイントはどのような部分か,150頁程度のコンパクトな書籍の中で概観したものです。特に,消滅時効,法定利率,保証,定型約款という四大論点に加えて,債権譲渡,解除と危険負担,契約不適合責任については,それぞれ章を設けて端的に解説しています。

 本書の特徴としては,民法改正を扱った書籍の中でも,全部を概説しようとするのではなく,ポイントを絞って,極めてコンパクトに書かれていることです(山本敬三先生の『民法の基礎から学ぶ民法改正』もコンパクトですが,学修を始めた人に向けた色彩が強く,本書とは対象とする読者層が異なると思います)。そのため,改正においてどのようなポイントが重要なのか,なぜそのようなポイントについて改正がなされたのかということをつかむのに適していると言えます。また,読み物として書かれただけあり,中間利息控除の議論(25頁以下)など,法制審議会の議論において,なぜ争いが生じたのかについても,分かりやすく書かれていると思いますし,定型約款の議論についても難航した様子が迫真性をもって書かれています(43頁など)。

 もっとも,本書はコンパクトな書籍なので,詳細を知るには,実際の議論を示した法制審議会の部会資料及び議事録を確認したほうが良いですし,一問一答その他より詳細な書籍に当たる必要もあります。また,錯誤のところ(101,102頁)では書かれているのですが,議事録を追っていると時たま出てくるブラックボックス的なところの説明がより充実していると,読み物として面白くなり,改正の経緯を理解するうえでもよりよくなるのではないかと思います。

 2020年4月施行の改正民法について概括的な視点を得るという意味では,良い一冊だと思います。改正の内容に追いつきたいという方や,法科大学院の学生などで改正の概要を知りたいという方は,持っていても良い一冊だと思います(個人的には,体系的に見る方がよいという方は山本先生の著書から入る方が良く,トピックから入るのが良いという方は本書から入るのが良いと思います。)。

 ところで,文献案内として(審議会委員の著書等で信頼できる解説書はあり,本書でもページ数を増やさずに数冊紹介する程度のスペースがあるところ,)あえて立案担当者のもののみに限ったのは何か意図があるのでしょうか…?

by Q.Urah